宿泊コラム

【民泊の本人確認】義務化の理由と未実施・拒否の罰則を徹底解説!
1.はじめに:民泊運営における本人確認の重要性
近年、手軽に利用できる宿泊形態として民泊が普及しています。しかし、その運営においては、宿泊者の本人確認が極めて重要な意味を持ちます。単なる手続きとしてではなく、安心・安全な宿泊環境を提供し、事業を安定的に継続していく上で不可欠な要素と言えるでしょう。
本人確認は、主に以下の点でその重要性が際立ちます。
- 法令遵守:旅館業法や住宅宿泊事業法(民泊新法)といった法律により、宿泊者の本人確認と記録が義務付けられています。
- 安全確保:テロ対策や犯罪防止の観点から、宿泊者の身元を明確にすることは社会全体の安全に寄与します。
- トラブル防止:近隣住民とのトラブル発生時や、施設内で問題が生じた際に、宿泊者を特定する上で不可欠です。
このように、宿泊者の本人確認は、運営者自身の法的義務を果たすだけでなく、宿泊者、近隣住民、そして地域社会全体の安全と秩序を守るための基盤となります。本記事では、この本人確認の重要性とその具体的な方法、さらには義務を怠った場合の罰則について詳しく解説していきます。
2.民泊運営に本人確認が義務付けられている理由
(1)旅館業法に基づく要請
民泊における本人確認の義務化は、まず旅館業法の精神が背景にあります。旅館業法は、宿泊施設が安全かつ衛生的に運営され、公衆衛生や宿泊者の安全が確保されることを目的とした法律です。この法律は、宿泊者に対する本人確認を以下のように求めています。
- 宿泊者名簿の作成・備え付け義務(旅館業法第6条)
旅館業法では、営業者は宿泊者名簿を設け、宿泊者の氏名、住所、連絡先、職業などを記載させることが義務付けられています。これは、感染症発生時や事件・事故発生時に迅速な対応を可能にするためです。 - 本人確認の徹底(旅館業法施行規則第4条の2)
特に外国籍の宿泊者に対しては、旅券(パスポート)の提示を求め、国籍および旅券番号の記載が義務付けられています。これは、国際的なテロ対策や不法滞在防止の観点から非常に重要視されています。
これらの規定は、民泊も宿泊事業の一種として、同様の責任を負うべきであるという考え方の基礎となっています。旅館業法が定める本人確認の要請は、民泊新法など新たな法制度にも引き継がれ、安全な宿泊環境の提供と社会秩序の維持に貢献しています。
(2)住宅宿泊事業法(民泊新法)における義務
2018年に施行された住宅宿泊事業法(民泊新法)は、民泊事業を健全に発展させることを目的としています。この法律は、民泊運営者(住宅宿泊事業者)に対し、宿泊者の本人確認を義務付けています。
具体的には、以下のような義務が課せられています。
- 宿泊者名簿の作成・備え付け
- 宿泊者の氏名、住所、職業、国籍、旅券番号(外国人)、到着日、出発日などを正確に記載し、3年間保存する必要があります。
- 本人確認の徹底
- 宿泊者名簿に記載する情報と照合するため、宿泊者全員の本人確認を行う必要があります。
対象者 | 確認事項の例 |
---|---|
日本人 | 氏名、住所、職業 |
外国人 | 氏名、住所、国籍、旅券番号、パスポートの写し |
これらの義務は、旅館業法に準じたものであり、民泊が宿泊施設として法的に認められる上で、安全確保とトラブル防止のために非常に重要な役割を果たしています。この義務を怠ると、後述する罰則の対象となる可能性がありますので、必ず遵守しましょう。
(3)テロ対策・犯罪防止の観点
民泊における本人確認は、旅館業法や民泊新法に基づく法的義務だけでなく、テロ対策や犯罪防止の観点からも極めて重要です。宿泊施設は、不法滞在者の温床となったり、麻薬取引、売春、盗品売買などの犯罪行為の拠点として利用されたりするリスクが常に存在します。
特に、近年多発する国際的なテロ行為においては、宿泊施設がテロリストの潜伏場所や作戦準備の拠点として悪用される事例も報告されています。宿泊者の身元を明確にすることで、こうしたリスクを未然に防ぎ、社会全体の安全を守ることに貢献します。
本人確認を徹底することは、以下のような効果をもたらします。
- 不法滞在者の発見・摘発の機会創出
- 犯罪計画の抑止
- 事件発生時の捜査協力の円滑化
犯罪に利用されやすい状況を排除することで、地域社会の治安維持にも繋がるのです。
(4)近隣トラブル防止と地域住民の安全確保
民泊における本人確認は、近隣住民の皆様の安全と生活環境を守る上で非常に重要です。見知らぬ旅行者が頻繁に出入りする民泊施設では、騒音やゴミの不法投棄、不法侵入などのトラブルが発生するリスクが伴います。
本人確認を徹底することで、万が一トラブルが発生した場合でも、宿泊者を特定し、迅速に対応することが可能になります。これにより、地域住民の皆様は安心して生活でき、民泊施設と地域社会との良好な共存関係を築くことができます。
例えば、以下のようなトラブルが発生した場合に役立ちます。
- 騒音問題: 深夜の騒ぎ声やパーティー音
- ゴミ問題: 分別されていないゴミの放置、不法投棄
- 不法侵入: 施設外への立ち入り、敷地内での迷惑行為
宿泊者の身元を明確にすることは、これらのトラブルを未然に防ぎ、あるいは発生後の解決を容易にするための第一歩となります。地域住民の平穏な生活を守るためにも、本人確認は不可欠なプロセスなのです。
3.宿泊者の本人確認方法と確認すべき情報
(1)対面での確認方法
対面による本人確認は、最も確実な方法の一つです。住宅宿泊事業法(民泊新法)では、宿泊施設を訪問して本人確認を行う「対面での確認」が認められています。
対面確認では、以下のいずれかの方法で行います。
- 宿泊施設での対面確認:
- 運営者または代理人が宿泊施設に赴き、直接宿泊者の身分証明書を確認する方法です。
- 身分証明書の提示を求め、写真と本人が一致するかどうかを確認します。
- その場で宿泊者名簿への記載を依頼し、必要事項を記入してもらうことも可能です。
- その他の場所での対面確認:
- 宿泊施設以外の場所(例:運営者の事務所、駅など)で待ち合わせ、身分証明書を確認する方法です。
- この場合も、宿泊者名簿の記入を促し、必要な情報を取得します。
対面での確認は、宿泊者とのコミュニケーションを通じて、信頼関係を築きやすいという利点もあります。緊急時の連絡先や滞在中の注意事項などを直接伝えることも可能です。
(2)ICT(情報通信技術)を活用した非対面(無人)での確認方法
民泊施設が無人運営の場合、ICT(情報通信技術)を活用した非対面での本人確認が認められています。これは、宿泊者の利便性を高めつつ、運営者の負担を軽減するための重要な手段です。
具体的な方法としては、以下のようなものが挙げられます。
- ビデオ通話システム: 事前に予約した時間に宿泊者と運営者がビデオ通話を行い、身分証明書と顔をリアルタイムで確認する方法です。
- 画像送信・アップロードシステム: 宿泊者がスマートフォンなどで身分証明書の画像と顔写真を撮影し、指定されたシステムへアップロードする方法です。この場合、画像が鮮明であること、顔と身分証明書が同時に確認できることなどが重要です。
- タブレット端末等を利用したシステム: 施設内に設置されたタブレット端末などを通じて、宿泊者が情報を入力し、身分証明書をスキャンしたり、顔を撮影したりする方法です。
これらの方法で確認された情報は、適切に宿泊者名簿へ記録・保管する必要があります。システム導入に際しては、個人情報保護への配慮はもちろんのこと、セキュリティ対策が十分に講じられているかを確認することが重要です。また、緊急時における連絡体制の確保も合わせて検討しておくべきでしょう。
(3)日本人宿泊者の確認事項と身分証明書
日本人宿泊者の本人確認においては、以下の情報を宿泊者名簿に記載するために確認する必要があります。
- 氏名
- 住所
- 職業
これらの情報は、運転免許証やマイナンバーカードなどの公的な身分証明書を用いて確認します。
【日本人宿泊者の本人確認に有効な身分証明書の例】
身分証明書の種類 | 確認のポイント |
---|---|
運転免許証 | 顔写真、住所、氏名、生年月日 |
マイナンバーカード | 顔写真、住所、氏名、生年月日 |
パスポート | 顔写真、氏名、生年月日、署名 |
健康保険証 | 住所、氏名、生年月日(顔写真なし) |
住民基本台帳カード | 顔写真、住所、氏名、生年月日 |
顔写真付きの身分証明書であれば一点で確認可能ですが、健康保険証のように顔写真がない場合は、住民票の写しなど別の公的書類と合わせて確認することが望ましいです。宿泊者名簿に正確な情報を記載するため、必ず有効な身分証明書を提示してもらい、記載事項と照合しましょう。
(4)外国人宿泊者の確認事項と身分証明書
外国人宿泊者の本人確認は、旅館業法第6条および住宅宿泊事業法第12条により義務付けられています。特に、日本に住所を持たない外国人宿泊者については、以下の情報を確認し、身分証明書の提示を求める必要があります。
確認事項:
- 氏名
- 住所
- 国籍
- 旅券番号
提示を求める身分証明書:
- パスポート(旅券)の提示を義務付け、その写しを宿泊者名簿とともに保存する必要があります。
身分証明書 | 備考 |
---|---|
パスポート | 日本に住所を持たない外国人宿泊者全員に提示を求め、コピーを保存します。 |
また、パスポートの偽造防止措置や有効期限の確認も重要です。これにより、不法滞在や犯罪に利用されるリスクを低減し、安全な民泊運営に繋がります。パスポートの提示を拒否する宿泊者は受け入れないようにしてください。
(5)宿泊者名簿への記録事項
民泊運営者は、本人確認を行った上で、以下の情報を宿泊者名簿に正確に記録し、一定期間保存する義務があります。これは、緊急時の連絡や万が一のトラブル発生時に、迅速な対応を可能にするためです。
【日本人宿泊者の記録事項】
- 氏名
- 住所
- 職業
- 連絡先(電話番号など)
- 宿泊年月日
【外国人宿泊者の記録事項】
日本人宿泊者の記録事項に加え、以下の情報も必須です。
項目 | 内容 |
---|---|
国籍 | パスポート等で確認した国籍 |
パスポート番号 | パスポートで確認した番号 |
パスポートの写し | 運営者がコピーを保管 |
これらの情報は、住宅宿泊事業法に基づき3年間保存することが義務付けられています。正確な記録と適切な管理を心がけましょう。
4.本人確認義務を怠った場合の罰則
(1)民泊運営者への罰則
民泊運営者が本人確認義務を怠った場合、住宅宿泊事業法(民泊新法)に基づき、以下のような罰則が科される可能性があります。
違反行為の内容 | 罰則 |
---|---|
登録事項の虚偽記載 | 30万円以下の罰金、または1年以下の懲役 |
宿泊者名簿の不備・未作成 | 30万円以下の罰金、または1年以下の懲役 |
監督処分違反 | 6ヶ月以下の懲役、または100万円以下の罰金 |
これらの罰則は、民泊運営の信頼性を確保し、安全な宿泊環境を維持するための重要な措置です。特に、繰り返し義務違反を犯したり、悪質なケースと判断されたりした場合には、事業登録の取消しや、今後の民泊事業への参入が制限される可能性もあります。
本人確認は、単なる手続きではなく、近隣住民の安全確保やテロ対策といった公共の利益に関わる重要な義務です。そのため、適切な本人確認を実施しなかった場合、行政指導や業務改善命令の対象となり、最終的には上記の罰則が適用されるリスクがあることを認識しておく必要があります。適正な運営を心がけましょう。
(2)宿泊者への罰則(本人確認に応じなかった場合)
宿泊者が民泊運営者からの本人確認に応じない場合、運営者は宿泊を拒否することができます。これは、旅館業法第5条および住宅宿泊事業法第13条において、宿泊者名簿の記載義務が定められているためです。宿泊者が本人確認に応じないことは、この義務を運営者が遵守できない状況を作り出すため、正当な理由として宿泊拒否が認められます。
宿泊拒否は、民泊運営者が法的義務を果たす上で必要な措置であり、宿泊者側には以下のような影響が生じる可能性があります。
- 宿泊契約の解除: 本人確認が完了しない場合、宿泊契約は成立せず、または解除されることになります。
- 宿泊の拒否: 当該施設への宿泊はできなくなります。
- 他の施設での宿泊困難: 一度本人確認を拒否したという情報が運営者間で共有される可能性は低いですが、今後の宿泊予約に影響が出る可能性もゼロではありません。
また、本人確認に応じないこと自体に、宿泊者に対する直接的な罰則(罰金や懲役など)は規定されていません。しかし、運営者が法的義務を果たす上で宿泊拒否という対応を取ることは、宿泊者にとって不利益となることを理解しておく必要があります。安全な宿泊環境の確保と法の遵守のため、求められた場合は速やかに本人確認に応じましょう。
5.本人確認時の注意点と運用ポイント
(1)自治体による追加条例の確認
民泊の本人確認義務は、国の法律である住宅宿泊事業法(民泊新法)によって定められていますが、それに加えて各自治体が独自の条例を定めている場合があります。これらの条例は、地域の実情に合わせて、本人確認の方法や記録事項について国の基準よりも詳細な規定や追加の義務を設けていることがあります。
例えば、特定の自治体では以下のような追加の要件が課されることがあります。
- 本人確認方法の指定:
- 対面での確認を義務付ける
- 特定のICTツールの利用を推奨する
- 記録事項の追加:
- 緊急連絡先の詳細な記載
- 宿泊目的の確認と記録
- 報告義務の追加:
- 自治体への定期的な宿泊者情報の報告
これらの自治体独自の条例に違反した場合も、罰則の対象となる可能性があります。運営を開始する前、または運営中であっても、必ず施設が所在する自治体の最新の条例を確認し、それらを遵守することが重要です。自治体のホームページや担当部署への問い合わせを通じて、正確な情報を入手しましょう。
(2)個人情報保護への配慮
本人確認において宿泊者の個人情報を取得する際は、個人情報保護法および関連法令を遵守することが不可欠です。取得した情報は、目的外利用や不適切な開示・漏洩がないよう厳重に管理しなければなりません。
具体的な配慮事項は以下の通りです。
- 利用目的の明確化と同意取得
- 本人確認によって取得する個人情報は、宿泊者の安全確保や法令遵守のために利用することを明確に伝え、同意を得るようにしましょう。
- 適切な情報管理
- 取得した身分証明書のコピーや宿泊者名簿は、鍵のかかる場所に保管するなど、物理的・技術的な安全管理措置を講じてください。
- 不要になった情報は速やかに、かつ安全な方法で破棄する義務があります。
- 従業員への周知徹底
- 本人確認を行う従業員や関係者に対し、個人情報保護の重要性と適切な取り扱い方法を教育し、徹底させることが大切です。
管理項目 | 留意点 |
---|---|
取得範囲 | 法律で定められた必要最低限の情報に留める |
保管期間 | 法令に基づき適切に設定し、超過しない |
アクセス制限 | 権限のない者が情報にアクセスできないようにする |
これらの配慮を怠ると、個人情報保護法違反となり、民泊運営者としての信頼を失うだけでなく、罰則の対象となる可能性もあります。
(3)スムーズな本人確認のための工夫
本人確認を円滑に進めるためには、宿泊者の負担を軽減し、効率的な運用を心がけることが重要です。
まず、予約時の段階で本人確認が必要である旨を明確に伝え、宿泊者に事前に準備を促すことが有効です。予約確認メールや宿泊案内に、必要な身分証明書の種類や確認方法を具体的に記載しましょう。
次に、ICTを活用した非対面での本人確認システムを導入している場合、システム操作の手順を分かりやすく案内することが大切です。
例えば、以下のような工夫が考えられます。
- 多言語対応: 外国人宿泊者のために、多言語での案内を用意する
- 視覚的な説明: スクリーンショットや動画を用いて、手順を視覚的に説明する
- FAQの充実: よくある質問と回答をまとめ、疑問点を自己解決できるようにする
また、緊急時の連絡先やサポート体制を明示し、宿泊者が困った際にすぐに助けを求められるようにすることも安心感につながります。
工夫のポイント | 具体的な内容 |
---|---|
事前告知の徹底 | 予約時、確認メールで本人確認の必要性・方法を明記 |
システム案内 | 多言語対応、視覚的説明、FAQの充実 |
サポート体制 | 緊急連絡先、問い合わせ窓口の明示 |
これらの工夫により、宿泊者のストレスを減らし、スムーズなチェックインを実現することができます。
6.まとめ
民泊運営における宿泊者の本人確認は、旅館業法や住宅宿泊事業法(民泊新法)によって義務付けられています。これは、テロ対策や犯罪防止、さらには地域住民の安全確保と近隣トラブル防止に不可欠な措置です。
本人確認を適切に行うことは、法令遵守はもちろんのこと、運営者自身の責任を果たす上でも極めて重要です。具体的な罰則は以下の通りです。
対象者 | 罰則内容(代表例) |
---|---|
運営者 | 業務改善命令、業務停止命令、罰金(住宅宿泊事業法違反の場合、100万円以下の罰金)など |
宿泊者 | 特段の罰則規定はなし(ただし宿泊拒否の対象となる可能性あり) |
本人確認の義務を怠れば、運営者は法的責任を問われるだけでなく、社会的信用も失いかねません。対面やICTを活用した適切な方法で、日本人・外国人問わず必要事項を確認し、宿泊者名簿に正確に記録することが求められます。
自治体独自の条例や個人情報保護への配慮も怠らず、安全で安心な民泊運営を目指しましょう。