宿泊コラム

1. はじめに：民泊運営と賃貸借契約の重要性

近年、旅行者の宿泊スタイルの多様化や副業ブームなどを背景に、空き部屋や住宅を宿泊施設として貸し出す「民泊」が注目されています。
民泊を始めるにあたっては、集客や清掃などの運営方法も重要ですが、忘れてはならないのが賃貸借契約の存在です。

民泊運営における賃貸借契約の重要性
トラブル発生時のリスク軽減
法令遵守と健全な民泊運営
オーナーとの合意形成と信頼関係構築

なぜなら、民泊運営は他人の所有する不動産を利用して事業を行う場合が多く、その法的根拠となるのが賃貸借契約だからです。
賃貸借契約は、単に物件を借りるためだけの契約ではなく、円滑で安全な民泊運営を成功させるための重要な鍵となります。

この章では、民泊運営を行う上でなぜ賃貸借契約が重要なのか、その基礎知識について解説していきます。

2. 民泊運営における賃貸借契約の基礎知識

(1) 民泊と賃貸借契約の種類

民泊運営を行うためには、物件の賃貸人であるオーナーとの間に適切な賃貸借契約を締結する必要があります。一口に賃貸借契約と言っても、その種類は一つではありません。民泊事業に関係する主な契約の種類は以下の通りです。

契約の種類	概要
普通賃貸借契約	居住用として借りる一般的な契約。民泊利用は原則禁止されている場合が多い。
定期借家契約	契約期間が予め定められており、更新がない契約。期間満了時に契約は終了する。
事業用賃貸借契約	店舗や事務所など、事業目的で借りる契約。民泊利用を想定している場合は、契約内容に明記する必要がある。
民泊利用許諾付き賃貸借契約	民泊利用を前提とした契約。賃料や契約期間、利用ルールなどが民泊向けに設定されている。

上記の表の通り、契約の種類によって、民泊利用の可否や条件が異なります。そのため、自分の事業計画に合った契約を選択することが重要です。後々のトラブルを避けるためにも、契約前に必ず契約書の内容を確認し、不明点はオーナーに確認するようにしましょう。

(2) 借地借家法と特区民泊法の適用範囲

民泊運営を行う場合、賃貸借契約が借地借家法の保護を受ける「賃貸借」なのか、それとも特区民泊法の適用を受ける「宿泊契約」なのかを明確にする必要があります。

区分	適用法令	特徴
賃貸借	借地借家法	・契約期間に制限なし ・更新拒絶や賃料増額に制限あり ・借主保護の規定が強い
宿泊契約	特区民泊法	・契約期間は原則として30日以内 ・更新拒絶や賃料の規定は任意 ・旅館業法の簡易宿所営業の許可が必要

例えば、長期間にわたって住居として貸し出す場合は借地借家法が、ホテルのように短期滞在を目的とした貸し出しの場合は特区民泊法が適用される可能性が高いです。ただし、実際の適用は契約内容や運営実態によって判断されるため、注意が必要です。

3. 民泊運営に必須の賃貸借契約書ひな形

(1) ひな形を利用するメリット

賃貸借契約書を作成する際、ひな形を利用することには多くのメリットがあります。

メリット	説明
時間短縮	一から文章を考える必要がなく、簡単に作成できる
抜け漏れ防止	必要な項目が網羅されているため、重要な項目を見落とすリスクを減らせる
専門知識不足を補える	法律に則った内容になっているため、専門知識がなくても安心
トラブル防止	ああらかじめ契約内容を明確にしておくことで、後々のトラブルを回避できる可能性が高まる

ひな形を上手に活用することで、時間と労力を節約しながら、正確で安全な契約書を作成することができます。

(2) 記載項目と解説：物件情報、契約期間、賃料、更新、解約、禁止事項、設備、トラブル対応など

賃貸借契約書には、トラブルを防ぎ、双方にとって安心できる民泊運営を行うために、以下の項目を盛り込むようにしましょう。

項目	内容
物件情報	住所、間取り、面積などの基本情報に加え、民泊利用が可能な物件であることを明記します。
契約期間	契約の開始日と終了日を明確に定めます。
賃料	月々の賃料、支払い方法、支払期日を定めます。敷金・礼金についても触れておきましょう。
更新	契約更新の有無、更新時の条件などを記載します。
解約	解約の申し出期限、違約金の有無などを明確にしておきます。
禁止事項	無許可の転貸や民泊運営、騒音、ゴミの不法投棄など、禁止事項を具体的に列挙します。
設備	家具家電、インターネット環境など、物件に付帯する設備を明記します。
トラブル対応	トラブル発生時の連絡先、対応方法などを事前に取り決めておきます。

これらの項目を網羅することで、後々のトラブルを未然に防ぐことができます。

4. 作成時の注意点：トラブルや無許可運営を避けるために

(1) 法令遵守：旅館業法、住宅宿泊事業法との関係

民泊運営は、旅館業法や住宅宿泊事業法（民泊新法）といった法律の規制を受けます。これらの法律を遵守せずに運営を行うと、罰則の対象となる可能性があります。賃貸借契約書を作成する際には、これらの法律に則った運営が求められることを明記する必要があります。

法律	概要
旅館業法	宿泊施設を営業する場合に許可が必要となる法律
住宅宿泊事業法（民泊新法）	住宅を宿泊施設として提供する場合に届出が必要となる法律（年間営業日数の上限などの条件あり）

賃貸借契約書には、例えば以下のような条項を盛り込むことで、法令遵守を意識させることができます。

• 本物件は、住宅宿泊事業法に基づく届出を行った上で、住宅宿泊事業として運営するものとする。
• 乙（借主）は、旅館業法の適用を受ける場合、必要な許可を取得した上で、本物件を使用するものとする。

これらの法律に関する詳細は、観光庁などのウェブサイトで確認できます。

(2) 近隣住民への配慮：騒音、ゴミ問題への対策

民泊は、一般の住宅地で行う場合が多いため、近隣住民への配慮は欠かせません。特に、騒音やゴミ問題はトラブルに発展しやすいので、賃貸借契約書に具体的な対策を盛り込むことが重要です。

項目	具体的な内容例
騒音	– 夜間の時間帯（例えば22時以降）は静かにする – 大声での会話やパーティーの禁止 – 楽器演奏やカラオケの制限
ゴミ	– ゴミ出しルール（分別方法、排出場所、曜日）の明記 – ゴミの散乱防止対策 – ゴミ処理費用の負担

これらの対策を契約書に明記することで、宿泊者に対して注意喚起を行うことができ、トラブル発生のリスクを低減できます。また、近隣住民からの理解を得やすくなるというメリットもあります。

(3) 契約内容の明確化：権利義務を明確にする

賃貸借契約書では、貸主と借主の権利と義務を明確に定めることが重要です。口約束だけでは、後々トラブルが発生する可能性があります。契約内容があいまいな場合、どちらに責任があるのか判断が難しく、解決に時間がかかってしまう可能性もあるからです。

項目	内容例
原状回復義務	借主は、契約終了時に物件を借りた時の状態に戻す義務があります。ただし、通常の使用による損耗は除きます。
修繕義務	通常の使用による損耗を超える破損は、借主の責任で修繕する必要があります。
解約条項	契約期間中の解約条件や違約金について明確に定めます。
禁止事項	無許可の転貸やペット飼育、騒音など、禁止事項を具体的に記載します。

これらの項目を具体的に明記することで、双方にとって安心できる契約を締結できます。後々のトラブルを未然に防ぐためにも、契約内容の明確化は非常に重要です。

5. まとめ：適切な契約で安心・安全な民泊運営を

民泊運営において、賃貸借契約は安心・安全な運営の基盤となります。契約書を作成することで、オーナーと運営者の双方が安心して事業に取り組むことができます。

メリット	説明
トラブルの未然防止	契約内容を明確にすることで、後々のトラブルを避けることができます。
法令遵守の意識向上	賃貸借契約書を作成する過程で、関係法令について理解を深めることができます。
信頼関係の構築	オーナーと運営者の間で、透明性が高く、信頼に基づいた関係を築くことができます。
スムーズな事業運営	契約内容に基づいて、円滑な運営を進めることができます。

適切な賃貸借契約書を作成し、安心・安全な民泊運営を目指しましょう。