宿泊コラム

注意点も!民泊許可申請に必要な費用と手続きの流れを解説

注意点も!民泊許可申請に必要な費用と手続きの流れを解説

1. はじめに:増加傾向にある民泊とその許可制度

近年、旅行者の宿泊スタイルの多様化に伴い、従来のホテルや旅館に加えて、「民泊」が注目を集めています。

観光庁の調査によると、2022年の民泊利用者数は、延べ約567万人泊と報告されており、年々増加傾向にあります。

民泊利用者数(万人泊)対前年比
2019年874
2020年257-70.6%
2021年42866.5%
2022年56732.5%

出典:観光庁「令和4年における住宅宿泊事業及び旅館業法に基づく届出状況等について」

民泊は、旅行者にとって宿泊費を抑えられる、より深く地域と触れ合えるといったメリットがある一方、宿泊者の安全確保や近隣住民とのトラブル防止の観点から、適切な運営が求められています。

そのため、日本では民泊の営業には、旅館業法や住宅宿泊事業法(民泊新法)に基づいた許可制度が設けられています。

この章では、民泊を始めるために必要な許可の種類や申請方法、費用などについて詳しく解説していきます。

2. 民泊を始めるために必要な許可の種類

2.1 簡易宿所営業許可

簡易宿所とは、旅館業法に規定されている宿泊施設の一種です。 旅館やホテルのように、宿泊客に食事を提供するサービスは原則として行いません。 宿泊施設の規模や設備によって、下記のように区分されます。

区分面積要件
第一種居室の合計が100㎡以上
第二種居室の合計が15㎡以上

簡易宿所営業許可を取得するには、それぞれの区分に応じた設備基準を満たす必要があります。 例えば、客室の広さやトイレ、浴室、洗面所などの設置基準が細かく定められています。 また、消防設備についても、スプリンクラーや自動火災報知機などの設置が義務付けられています。 これらの基準を満たしていない場合は、許可を受けることができません。 許可を受けるための費用は、申請手数料や消防設備の設置費用など、規模や設備によって異なります。 場合によっては、数百万円かかることもありますので、事前にしっかりと確認しておく必要があります。

2.2 特区民泊

特区民泊とは、国家戦略特別区域法に基づいて、旅館業法の規制が一部緩和された地域で行うことができる民泊の形態です。

旅館業法では、原則として宿泊施設の営業には都道府県知事の許可が必要ですが、特区民泊では、一定の要件を満たせば、届出のみで営業を行うことができます。

項目内容
宿泊日数原則として年間180日以内
営業日数区域によって異なる
最小宿泊日数区域によって異なる

特区民泊は、旅館業法の規制が緩和されていることから、比較的簡易な手続きで民泊を始めることができます。しかし、区域や施設によって適用される規制が異なるため、事前に十分な確認が必要です。

2.3 住宅宿泊事業法(民泊新法)

2018年6月15日に施行された住宅宿泊事業法(民泊新法)は、それまで旅館業法や特区民泊といった枠組みで運営されていた民泊を、新たに「住宅宿泊事業」として明確に定義した法律です。

従来の法律では、旅館業法上の許可を取得するには厳しい条件をクリアする必要があり、ハードルが高いとされてきました。一方で、特区民泊は国家戦略特区に指定された地域でのみ可能なため、地域が限定されるという課題がありました。

そこで、より多くの人が民泊を運営できるようにと制定されたのが民泊新法です。この法律では、一定の条件を満たせば誰でも民泊を営むことが可能になりました。

法律概要対象地域営業日数制限
住宅宿泊事業法(民泊新法)一定の条件を満たせば誰でも民泊事業が可能全国年間180日以内

主な要件は以下の通りです。

  • 住宅に宿泊者を受け入れること
  • 年間営業日数が180日以内であること
  • 都道府県知事への届出を行うこと

民泊新法は、旅館業法と比較して営業日数に制限があるものの、比較的簡易な手続きで民泊を始めることが可能となっています。

3. 許可申請に必要な費用

3.1 申請手数料

民泊の許可申請には、申請手数料がかかります。手数料は、許可の種類や各自治体によって異なります。

許可の種類手数料の目安備考
簡易宿所営業許可1~3万円程度各自治体によって異なる
特区民泊各自治体によって異なる
住宅宿泊事業法(民泊新法)6,000円

例えば、東京都新宿区の場合、簡易宿所営業許可の申請手数料は29,000円です。一方、住宅宿泊事業法(民泊新法)の申請手数料は全国一律で6,000円となっています。

申請手数料は、原則として払い戻しされません。申請前に、必ずご自身の自治体のホームページなどで、最新の情報を確認するようにしてください。

3.2 消防設備費用

民泊施設を開業するには、消防法に基づいた安全基準を満たす必要があり、必要な消防設備の設置費用がかかります。具体的には、以下の費用がかかるケースが多いです。

消防設備設置費用(目安)
自動火災報知設備5~15万円
誘導灯3~5万円
避難器具2~5万円
消火器1~3万円

ただし、建物の構造や広さ、収容人数によって必要な設備は変わるため、費用は大きく変動します。例えば、スプリンクラー設備の設置が義務付けられる場合、数百万円の費用がかかるケースもあります。

消防設備費用は、設置工事費だけでなく、その後の点検やメンテナンス費用も考慮する必要があります。消防設備は設置後の定期的な点検が法律で義務付けられており、専門業者に依頼する必要があるためです。

3.3 その他の費用

申請手数料や消防設備費用以外にも、民泊許可取得には下記のような費用が発生することがあります。

費用項目内容想定費用
建築士による設計費用改修工事が必要な場合に、建築士に設計を依頼する費用数十万円〜
改修工事費用消防設備の設置やバリアフリー化など、法律や条例に基づいた改修工事が必要になる場合があります数十万円〜数百万円
保険料施設賠償責任保険や火災保険など、民泊運営にあたり必要な保険に加入する必要があります数万円〜
広告宣伝費民泊の集客のために、ウェブサイトや旅行予約サイトへの掲載費用などが発生します数万円〜
運営代行費用清掃やゲスト対応などを外部に委託する場合、運営代行会社に支払う費用売上の10%〜30%程度

これらの費用は、物件の状況や運営方法によって大きく異なるため、事前に見積もりを取ることが重要です。

3.4 代行業者を利用する場合の費用

許可申請の手続きは複雑で、専門的な知識も必要となるため、行政書士などの代行業者に依頼するケースも少なくありません。代行業者を利用する場合、費用は業者や業務内容によって異なりますが、一般的には以下の費用がかかります。

項目費用相場
相談料無料~数万円
手続き代行費用10万円~30万円
その他費用(登録料、交通費など)数万円~

上記はあくまでも目安であり、業者や物件の状況によって費用は大きく変動します。そのため、複数の業者から見積もりを取り、費用やサービス内容を比較検討することが重要です。また、契約前に費用に含まれるサービス内容や追加費用の有無などをしっかりと確認するようにしましょう。

4. 住宅宿泊事業法(民泊新法)の許可取得までの流れ

4.1 事前相談

民泊事業を始めるにあたって、まずはお住まいの地域の役所などに事前相談をすることが重要です。

なぜ事前相談が重要なのでしょうか。 それは、各自治体によって条例や規制内容が異なる場合があるためです。

例えば、以下の表をご覧ください。

地域条例例
A市営業日数制限(年間180日以内など)
B町近隣住民への説明会の開催義務付け
C村騒音対策に関する独自の基準設定

このように、同じ民泊事業を行う場合でも、地域によって守るべきルールが異なります。事前相談では、以下のような内容を確認することができます。

  • お住まいの地域で民泊事業を行うための要件
  • 必要な手続きや提出書類
  • 申請にかかる費用や期間
  • 消防設備の設置基準
  • 近隣住民への配慮事項

後々のトラブルを防ぎ、スムーズに許可を取得するためにも、まずは事前相談を行いましょう。

4.2 必要書類の準備

許可申請には、様々な書類が必要です。事前に種類や内容を把握し、漏れなく準備することが大切です。主な必要書類は以下の通りです。

書類名内容備考
住宅宿泊事業届出書施設の概要、運営者情報、宿泊料金など様式は観光庁のウェブサイトからダウンロードできます
住宅の図面各階の平面図、付近の状況図など法律で定められた縮尺で作成する必要があります
消防計画書または防火管理者選任届出書消防設備の概要、避難経路など宿泊人数や建物の構造によって提出書類が異なります
その他登記簿謄本、賃貸借契約書など場合によっては追加書類が必要となることがあります

必要書類は、管轄する自治体や申請する許可の種類によって異なる場合があります。事前に自治体のウェブサイトを確認するか、窓口に問い合わせるようにしましょう。また、書類によっては、作成に専門家の協力が必要となる場合もあります。

4.3 申請書類の提出

必要書類がすべて揃ったら、管轄の都道府県または保健所政令市に提出します。提出方法は、窓口に直接持参する方法と郵送で送付する方法があります。

申請書類は正本と副本の2部提出する必要があるケースが一般的です。 また、各自治体によって、オンライン申請システムを導入している場合もあります。

申請書類の提出前に、内容に誤りや不足がないか、今一度しっかりと確認することが大切です。

項目内容
提出先管轄の都道府県または保健所政令市
提出方法窓口持参または郵送
部数2部(正本・副本)

なお、提出書類の内容や提出部数、提出方法については、事前に管轄の窓口に確認することをおすすめします。

4.4 現地調査

申請書類を提出した後、消防署や保健所による現地調査が行われます。

これは、提出した書類の内容と実際の物件の状態が一致しているか、旅館業法や消防法などの関係法令に適合しているかをチェックするためです。

現地調査では、主に以下の項目が確認されます。

項目内容
居室の広さ各部屋の広さが基準を満たしているか
避難経路避難経路が確保されているか、幅員は十分か、また、緊急時に利用できる状態になっているか
消防設備消火器や自動火災報知設備などの設置場所や設置数は適切か
衛生環境清潔な状態が保たれているか、トイレや浴室などの設備は衛生基準を満たしているか
近隣への影響騒音やゴミ出しなど、近隣住民への配慮がなされているか
その他施設の構造や設備が、申請内容と一致しているか

現地調査で指摘事項があった場合は、その内容に応じて改善が必要です。場合によっては、改修工事に費用や時間を要することもあります。指摘事項をクリアするまで許可が下りないため、現地調査は非常に重要なステップとなります。

4.5 許可書の交付

すべての審査が完了し、問題がなければ、申請からおおむね1~2ヶ月で、申請した自治体から「住宅宿泊事業法に基づく住宅宿泊管理業者登録簿記載事項通知書」または「住宅宿泊事業届出書 受理証」が発行されます。

書類名交付対象者
住宅宿泊事業法に基づく住宅宿泊管理業者登録簿記載事項通知書住宅宿泊管理業者
住宅宿泊事業届出書 受理証住宅宿泊事業者(届出を要するもの)

この交付をもって、晴れて民泊運営を行うことができます。ただし、許可を得られた後も、運営状況の報告や、旅館業法に則った衛生管理、消防設備の維持管理など、適切な運営を継続していく必要があります。

なお、許可の内容は、許可証に記載されている事項に従うようにしてください。変更が生じた場合は、速やかに届け出を行うようにしましょう。

5. 必要書類と注意点

5.1 住宅宿泊事業届出書

住宅宿泊事業を始めるには、「住宅宿泊事業届出書」を提出しなければなりません。これは、事業の内容を登録し、法令遵守を誓約する重要な書類です。届出書には、以下のような内容を記載します。

記載項目内容
届出者の氏名・住所個人事業主の場合は個人名と住所、法人の場合は法人名と本店所在地を記載します。
住宅宿泊事業の名称事業を行う上で自由に決めることができます。
住宅宿泊事業の目的住宅宿泊事業を行う目的を具体的に記載します。
住宅宿泊事業の管理者の氏名・住所管理者を置く場合は、その方の氏名と住所を記載します。届出者と同じ場合は、「同上」と記載します。
住宅の所在地住宅宿泊事業を行う住宅の所在地を記載します。
住宅の延べ面積住宅宿泊事業を行う住宅の延べ面積を記載します。
住宅の構造・階数住宅宿泊事業を行う住宅の構造と階数を記載します。
住宅宿泊事業の開始予定日住宅宿泊事業を開始する予定日を記載します。

届出書の内容は、正しく正確に記載する必要があります。記載内容に虚偽や誤りがあった場合、許可が取り消される可能性もあるため注意が必要です。

5.2 住宅の図面

民泊を始めるにあたって、住宅宿泊事業届出書に添付必須の書類として、住宅の図面があります。図面は、建物の構造や間取り、消防設備の設置場所などを正確に示す重要な資料です。

提出が求められる図面の種類は、主に以下の通りです。

図面の種類内容
平面図各階の部屋の配置、広さ、用途などを示した図面
立面図建物の外観を東西南北の4方向から見た図面
断面図建物を垂直に切断した断面図
設備図(給排水、ガスなど)各設備の配置を示した図面

これらの図面は、建築基準法に基づいて作成されたものでなければなりません。新築や増改築を行った際に作成した図面を保管している場合は、そちらを使用できます。ただし、図面の縮尺や記載事項などが法令の規定に合致しているかを確認する必要があるため、注意が必要です。

図面の内容によっては、消防署から追加で資料を求められるケースもあります。必要な情報を網羅した正確な図面を準備することで、許可取得をスムーズに進めることが可能です。

5.3 その他の必要書類

住宅宿泊事業届出書や住宅の図面の他に、以下の様な書類が必要になる場合があります。

書類名内容備考
定款または寄附行為法人の目的や事業内容を記載した書類法人の場合
登記事項証明書会社の登記内容が記載された書類法人の場合、発行から3ヶ月以内のもの
賃貸借契約書の写し住宅を賃貸している場合に必要契約内容によっては許可が下りない場合もある
管理規約マンションやアパートなどの場合に必要民泊の運営に関する記載があるか確認が必要
同意書近隣住民から民泊運営に関する同意を得ていることを証明する書類自治体によっては提出が必須の場合もある

これらの書類は、物件の状況や自治体によって提出が求められるものが異なります。事前に管轄の自治体や専門家に確認し、必要な書類を漏れなく準備することが重要です。

6. 民泊許可取得をスムーズに進めるためのポイント

6.1 事前の情報収集

民泊事業を始めるにあたって、許可取得に向けてスムーズに準備を進めるためには、事前の情報収集が欠かせません。

民泊に関する情報は、国や自治体のホームページ、専門機関のウェブサイトなどで入手できます。

具体的には、以下の情報源を参考にしましょう。

情報源内容
観光庁住宅宿泊事業法(民泊新法)に関する情報
各都道府県・市区町村条例や手続きに関する情報
民泊関連団体業界動向やセミナー情報
不動産ポータルサイト民泊物件の情報

これらの情報源から、自身の状況に合った許可の種類や必要な手続き、費用などを把握しておきましょう。

また、法律や条例は改正される場合もあるため、最新の情報を確認することが重要です。

6.2 専門家への相談

民泊事業に関する法令や手続きは複雑で、専門知識が必要となる場合も少なくありません。

許可取得をスムーズに進めるためには、専門家へ相談することも有効な手段です。

専門家得意分野
行政書士許可申請書類の作成、提出の代理
税理士税務・会計処理の相談
不動産コンサルタント物件の選定、収益シミュレーション
建築士建築基準法に関する確認、改修工事の提案

これらの専門家は、それぞれの専門知識を生かして、事業者にとって最適なアドバイスやサポートを提供してくれます。

例えば、行政書士は、複雑な許可申請書類の作成や提出を代行してくれるため、事業者の負担を軽減できます。

また、税理士は、民泊事業に特有の税務や会計処理について相談に乗ってくれます。

専門家のサポートを受けることで、時間と労力を節約し、より確実な許可取得を目指せるでしょう。

7. まとめ:適切な手続きで安心・安全な民泊運営を

民泊事業を始めるには、適切な許可を取得し、法令を遵守することが不可欠です。 必要な手続きや費用を把握し、事前にしっかりと準備しておくことで、安心して民泊運営を行うことができます。

不明点があれば、専門家である行政書士や不動産コンサルタントに相談することも有効です。 正しく安全な民泊運営をすることは、宿泊者にとっても、地域社会にとっても、そして事業者自身にとっても、大きなメリットとなります。

この記事が、これから民泊を始めようと考えている方の参考になれば幸いです。

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