宿泊コラム

簡易宿所営業許可を徹底解説!取得までの流れ&費用
1. 簡易宿所営業許可とは?

宿泊施設の種類と違い
簡易宿所は、旅館業法に規定されている宿泊施設の一種です。 宿泊施設は大きく分けると下記のように分類されます。 それぞれ旅館業法上の定義や営業形態が異なりますので、簡易宿所の位置づけを理解しましょう。
施設区分 | 説明 |
---|---|
ホテル | 客室が7室以上あり、寝具の提供や洗面設備を備えた客室が備えられている施設 |
旅館 | 客室に寝具の提供や洗面設備を備え、宿泊客の半分以上に食事を提供する施設 |
簡易宿所 | ホテルや旅館に該当しない規模の小さい宿泊施設。構造設備の基準を満たす必要がある |
下宿 | 1か月以上の期間を単位として、宿泊と食事を提供する施設 |
リゾートホテル | 温泉利用や保養などを目的とした滞在型のホテル |
簡易宿所は、ホテルや旅館に比べて小規模な施設であることが特徴です。 また、宿泊者へのサービスや設備についても、ホテルや旅館ほど充実していない場合が多いです。
メリット・デメリット
簡易宿所営業許可を取得するメリット・デメリットは、以下の表のとおりです。
項目 | メリット | デメリット |
---|---|---|
収益性 | ・初期費用を抑えられる場合がある ・訪外国人の増加に伴い、需要が見込める | ・宿泊料金が安い分、収益を確保するには工夫が必要 ・営業日数や稼働率によって収益が変動しやすい |
手続き | ・ホテルや旅館と比較して、許可要件が緩やかである | ・施設基準や管理者要件を満たす必要がある ・書類作成や手続きに時間がかかる場合がある |
運用 | ・旅館業法の適用を受けながらも、比較的自由な運営ができる | ・近隣住民とのトラブルに注意が必要 ・適切な衛生管理や安全対策が求められる |
簡易宿所は、ホテルや旅館と比較して、初期費用を抑えられる場合があり、参入しやすいというメリットがあります。また、訪日外国人旅行者の増加に伴い、宿泊施設としての需要も見込めます。一方で、宿泊料金が安い分、収益を確保するには工夫が必要となります。
必要な許可・届出
簡易宿所営業を始めるには、旅館業法に基づく簡易宿所営業許可の取得が必須です。 ただし、簡易宿所の規模や構造によっては、旅館業法以外の法律に基づく許可や届出が必要となるケースもあります。
代表的なものとしては、以下のものが挙げられます。
法律 | 届出・許可 | 概要 |
---|---|---|
消防法 | 消防法令適合通知書/防火対象物使用開始届出書 | 消防設備の設置や避難経路の確保など、消防に関する基準への適合が求められます。 |
建築基準法 | 建築確認申請/完了検査 | 建築物の規模や構造が、建築基準法に定める基準に適合している必要があります。 |
都市計画法 | 開発行為許可申請 | 市街化区域・調整区域のいずれかで、用途地域によっては許可が必要となります。 |
旅館業法以外の許可・届出が必要かどうかは、建物の状況や自治体によって異なるため、事前に確認することが重要です。
2. 簡易宿所営業許可の取得要件

施設基準:広さ、設備、構造
簡易宿所営業許可を取得するには、施設が一定の基準を満たしている必要があります。具体的には、広さ、設備、構造に関する以下の基準をクリアする必要があります。
広さ
- 居室の延べ面積が7.43㎡以上であること
- 居室以外の部分は、用途に応じて必要な広さを確保すること
設備 簡易宿所には、宿泊者の安全・衛生・快適性を確保するために、以下の設備が必要です。
設備 | 基準 |
---|---|
換気設備 | 居室ごとに設置すること |
照明設備 | 居室および共用部分に設置すること |
給排水設備 | 飲用に適した水を供給できること |
トイレ設備 | 便所と浴室は同じ場所に設置しないこと |
寝具類 | 清潔なものを用意すること |
その他必要な設備 | 消防用設備など |
構造
- 建築基準法や消防法などの関係法令に適合していること
- 避難経路が確保されていること
これらの基準を満たしていない場合は、改修工事が必要になる場合があります。広さや設備は地域によって異なる場合もあるため、事前に確認しておきましょう。
管理者要件:設置、資格
簡易宿所を運営するには、施設の管理者を設置する必要があります。 管理者は、宿泊者の安全や衛生を確保するために重要な役割を担います。
要件 | 内容 |
---|---|
設置 | 簡易宿所に常駐する必要はありませんが、緊急時などに速やかに対応できる体制が必要です。 |
資格(いずれか必須) | ・旅館業法施行規則で定める資格者 ・6ヶ月以上の実務経験者 |
旅館業法施行規則で定める資格者には、以下のようなものがあります。
- ホテル業務管理士
- 旅館業経営管理士
- 調理師
- 製菓衛生師 など
実務経験とは、宿泊施設において、宿泊者の受付、客室への案内、寝具の整理等の業務に従事した経験を指します。
管理者要件を満たしていない場合、簡易宿所営業許可を受けることができません。
その他の要件:消防法令適合、都市計画法適合
簡易宿所を開業するには、施設基準や管理者要件以外にも、消防法令や都市計画法など、様々な法律に基づいた基準を満たす必要があります。
法律 | 基準 |
---|---|
消防法令 | ・消防設備の設置と維持 ・避難経路の確保 ・防火管理者の選任など |
都市計画法 | ・用途地域内での建築物の制限 ・開発許可など |
消防法令では、宿泊施設の利用者の安全を守るため、火災発生時の対策が細かく定められています。例えば、客室数や延べ床面積に応じた消火器や自動火災報知設備の設置、避難経路の確保などが義務付けられています。また、防火管理者の選任が必要となる場合もあります。
都市計画法では、街の環境や安全を守るため、土地の利用方法が定められています。簡易宿所の建築や運営が可能な用途地域かどうかを確認する必要があります。場合によっては、開発許可が必要となる場合もあります。
3. 簡易宿所営業許可申請の流れ

事前相談
簡易宿所営業許可を取得するためには、まず、営業を開始する地域の保健所へ事前相談に行くことが必須です。相談は電話ではなく、担当者と直接面談して行います。
事前相談では、主に以下のような内容について確認します。
相談内容 | 説明 |
---|---|
施設の用途 | 開業予定の施設が、簡易宿所の用途に合致しているかを確認します。用途地域や建築基準法上の制限など、具体的な要件について説明を受けましょう。 |
施設基準の適合性 | 施設の広さ、設備、構造などが、簡易宿所の基準を満たしているかを確認します。図面や写真を持参し、具体的なアドバイスを受けましょう。 |
管理者要件の適合性 | 管理者の選任基準や資格要件について確認します。 |
消防法令等の適合性 | 施設が、消防法令やその他の関係法令の基準を満たしているかを確認します。消防設備の設置や避難経路の確保など、具体的な要件について説明を受けましょう。 |
必要書類 | 申請に必要な書類の種類や提出部数、提出期限などを確認します。 |
その他 | その他、許可取得に関する疑問点や不明点を質問します。 |
事前相談を通して、疑問点を解消し、スムーズに許可申請に進めるようにしましょう。
必要書類の準備
簡易宿所営業許可申請には、様々な書類が必要です。事前に漏れなく準備しておきましょう。主な必要書類は以下の通りです。
書類名 | 内容・注意点 |
---|---|
簡易宿所営業許可申請書 | 申請書の様式は、都道府県によって異なる場合があります。 |
施設の平面図 | 客室、共用部分、設備などを記載します。 |
施設の構造設備の概要 | 建築基準法に基づく概要書が必要です。 |
管理者の資格証明書 | 管理者の氏名、住所、資格などを証明する書類です。 |
消防署長の発行する適合通知書(または届出書) | 消防法令に適合していることを証明する書類です。 |
定款またはそれに代わる書類 | 法人の場合は、定款が必要です。 |
登記事項証明書 | 申請日前3ヶ月以内に発行されたものが有効です。 |
この他にも、都道府県や施設の状況によって、追加書類が必要となる場合があります。申請前に、必ず管轄の都道府県に確認するようにしましょう。
申請手続き
簡易宿所営業許可を取得するための申請手続きは以下の通りです。
- 申請書類の提出必要な書類がすべて揃ったら、管轄する保健所へ提出します。書類名備考簡易宿所営業許可申請書施設の平面図施設の構造設備の概要を記載した書類管理者の資格証明書の写しその他(保健所から求められる書類)例:登記事項証明書、賃貸借契約書など
- 審査保健所は、提出された申請書類に基づき、施設が基準を満たしているか、管理者に必要な資格があるかなどを審査します。
- 現地検査審査を通過すると、保健所による現地検査が行われます。施設の構造や設備が、申請内容や法令の基準に適合しているかをチェックされます。
- 許可証の交付現地検査で問題がなければ、後日、保健所から簡易宿所営業許可証が交付されます。
現地検査
申請書類を受理した後は、保健所による現地検査が行われます。これは、提出した書類の内容と実際の施設が一致しているか、施設が旅館業法上の基準を満たしているかを確認するためです。
現地検査では、主に以下の項目がチェックされます。
項目 | 内容 |
---|---|
部屋の広さ | 各部屋の面積が基準を満たしているか |
設備 | 洗面設備、トイレ、冷暖房設備等の設置状況 |
構造・材質 | 耐火構造、換気設備、採光等の基準適合状況 |
衛生管理 | 清掃状況、ゴミ処理方法 |
消防設備 | 消火器、自動火災報知機等の設置状況 |
その他 | 近隣への迷惑防止対策等 |
現地検査で指摘事項があった場合は、その内容に応じて施設の改修などが必要になります。指摘事項がすべて解消された後、改めて検査を受け、問題がなければ許可が下りる流れです。
許可取得
必要な書類がすべて揃い、現地検査も問題なく終われば、いよいよ許可取得となります。
ステップ | 内容 | 期間 |
---|---|---|
申請 | 申請書類を保健所へ提出 | 数週間〜数ヶ月 |
審査 | 保健所による審査(書類審査、現地調査) | 数週間〜数ヶ月 |
許可 | 許可証の交付 | 審査終了後、数日以内 |
審査期間は、地域や申請内容によって異なります。
通常、申請から許可取得までは数週間から数ヶ月程度かかることが多いでしょう。
許可が下りると、晴れて簡易宿所の運営を開始することができます。
4. 簡易宿所営業許可取得にかかる費用

申請手数料
簡易宿所営業許可を取得するためには、申請手数料を支払う必要があります。
申請手数料は、各自治体によって異なります。
例えば、東京都の場合は以下の通りです。
区分 | 金額(円) |
---|---|
収容定員10人以下 | 19,000 |
収容定員11人以上 | 30,000 |
なお、申請手数料は、原則として払い戻しされません。
万が一、申請が却下された場合でも、手数料が返金されることはありませんので、ご注意ください。
設計費用(改修が必要な場合)
簡易宿所営業の許可を得るには、施設基準を満たす必要があります。既存の建物を簡易宿所として活用する場合、改装や設備の追加が必要になるケースがあります。設計費用は、改修内容の規模や設計事務所の料金体系によって異なります。
改修内容 | 費用目安 |
---|---|
壁の設置・撤去 | 数十万円~数百万円 |
水回り設備の設置・改修 | 数十万円~数百万円 |
消防設備の設置 | 数十万円~数百万円 |
バリアフリー化 | 数十万円~数百万円 |
設計費用(基本設計・実施設計) | 工事費用の5~15%程度 |
設計事務所へ依頼する際は、複数の業者から見積もりを取り、比較検討することが重要です。また、改修内容によっては、建築基準法や消防法などの関係法令に基づく確認申請が必要となる場合があります。確認申請が必要な場合は、設計事務所に相談し、適切な手続きを進めるようにしましょう。
その他費用
簡易宿所営業許可取得には、申請手数料や設計費用以外にも、以下のような費用が発生する可能性があります。
費用項目 | 内容 | 想定費用 |
---|---|---|
建築工事費 | 既存の建物を簡易宿所の施設基準に適合させるための改修工事費。 | 数十万円〜数百万円以上 |
消防設備工事費 | 消防法令に適合するための設備の設置や改修工事費。 | 数十万円〜数百万円以上 |
設備機器購入費 | 家具、家電、寝具、アメニティグッズなどの購入費。 | 数十万円〜数百万円以上 |
広告宣伝費 | ホームページ作成、ポータルサイトへの掲載、チラシ作成など、集客のための費用。 | 数万円〜数十万円以上 |
損害保険料 | 営業中の事故やトラブルに備えるための保険料。 | 数万円〜数十万円以上 |
運営委託費 | 宿泊施設の運営を外部業者に委託する場合の費用。 | 売上高の○%など |
これらの費用は、物件の状況や運営方法によって大きく異なります。事前に見積もりを取り、資金計画をしっかりと立てるようにしましょう。
5. 簡易宿所営業許可取得後の運営

届出・報告義務
簡易宿所営業許可を取得後も、円滑な運営のため、旅館業法に基づいた届出や報告義務が発生します。
これらの義務を怠ると、罰則が科される可能性もあるため注意が必要です。主な届出・報告義務は以下の通りです。
届出・報告事項 | 提出先 | 提出期限 |
---|---|---|
宿泊者名簿 | 警察署 | 宿泊者のチェックイン時 |
宿泊拒否をした場合の届出 | 警察署 | 宿泊を拒否した日から10日以内 |
営業廃止・休止届 | 都道府県知事 | 廃止・休止の30日前(休止の場合は、あらかじめ休止期間を定めている場合に限る) |
その他、法令で定められた事項の届出・報告 | 各所轄官庁 | 法令で定められた期間 |
これらの届出・報告を適切に行い、法令遵守を徹底することで、健全な簡易宿所経営を実現できます。
運営上の注意点
簡易宿所営業許可を取得後、円滑に運営するためには、法令遵守と近隣への配慮を徹底する必要があります。具体的には、以下のような点に注意しましょう。
注意点 | 内容 |
---|---|
宿泊者名簿の記帳・保管 | 宿泊者の氏名、住所、職業などを記帳し、3年間保管する必要があります。 |
宿泊拒否の可否 | 伝染病患者など、正当な理由なく宿泊を拒否することはできません。 |
苦情対応 | 近隣住民からの騒音などの苦情に適切に対応する必要があります。 |
消防設備の点検・維持 | 消火器や自動火災報知設備などを定期的に点検し、常に正常な状態に保つ必要があります。 |
施設の清掃・衛生管理 | 宿泊者が快適に過ごせるよう、施設の清掃や衛生管理を徹底する必要があります。 |
宿泊料金の表示 | 宿泊料金は、見やすい場所に表示する必要があります。 |
これらの注意点を守らない場合、営業停止などの処分を受ける可能性もあるため、注意が必要です。
トラブル事例
簡易宿所の運営にあたっては、様々なトラブルが発生する可能性があります。主なトラブル事例として、以下のようなものがあります。
トラブル事例 | 内容 |
---|---|
近隣住民とのトラブル | 騒音、ゴミ問題、違法駐車など、宿泊客の行動によって近隣住民とトラブルになるケースがあります。 |
宿泊客同士のトラブル | 騒音、迷惑行為など、宿泊客同士でトラブルになるケースがあります。 |
宿泊契約に関するトラブル | キャンセル、料金の支払いなどをめぐって、宿泊客との間でトラブルになるケースがあります。 |
事故・盗難 | 宿泊施設内で発生した事故や盗難について、責任を問われるケースがあります。 |
従業員とのトラブル | 労働条件、ハラスメントなどをめぐって、従業員との間でトラブルになるケースがあります。 |
これらのトラブルを避けるためにも、日頃から近隣住民への配慮を心がけ、宿泊施設内のルールを明確化し、宿泊客に周知することが重要です。また、トラブル発生時のために、保険への加入や弁護士への相談体制を整えておくことも大切です。
6. まとめ

簡易宿所営業許可取得のポイント
簡易宿所営業許可をスムーズに取得するためには、事前にしっかりと準備しておくことが重要です。
ポイント | 詳細 |
---|---|
施設基準の確認 | 延べ床面積や客室の広さ、設備など、施設基準を満たしているか事前に確認しましょう。既存の建物を利用する場合、改修が必要になるケースもあります。 |
管理者の設置 | 簡易宿所には、適切な管理者が必要です。管理者の資格要件や役割を理解し、確保しておきましょう。 |
消防法令・都市計画法への適合 | 宿泊施設のため、消防法令や都市計画法など、様々な法令を遵守する必要があります。専門家の意見も参考にしながら、必要な手続きを進めましょう。 |
事前相談の活用 | 申請前に保健所へ相談することで、スムーズに手続きを進めることができます。疑問点や不明点を解消しておきましょう。 |
上記以外にも、必要な手続きや書類は多岐にわたります。専門家である行政書士などに相談することも、円滑な許可取得への近道です。
専門家への相談のススメ
簡易宿所営業許可の取得は、複雑な法令や手続きが伴うため、専門家への相談がおすすめです。
専門家には、次のようなメリットがあります。
専門家 | メリット |
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行政書士 | 申請書類の作成や提出を代行してくれるため、時間と手間を省けます。 |
建築士 | 施設基準への適合性を判断し、必要な改修工事のアドバイスをもらえます。 |
消防設備士 | 消防法令への適合性を判断し、必要な消防設備の設置をサポートしてくれます。 |
専門家への相談は、許可取得をスムーズに進めるだけでなく、その後の運営を円滑に行う上でも役立ちます。
簡易宿所を開業しようとお考えの方は、ぜひ一度専門家にご相談ください。