宿泊コラム

宿泊事業を始める前に!簡易宿所許可の申請手続きと注意点

宿泊事業を始める前に!簡易宿所許可の申請手続きと注意点

1.はじめに

近年、簡易宿所業という宿泊事業が注目されています。民泊やホステルなど、多様な形態を含む簡易宿所業は、観光産業の活性化や地域資源の有効活用に寄与する一方で、法律や条例による規制も厳しく、許可申請には様々な手続きと要件が必要となります。

本記事では、簡易宿所許可とは何か、その申請手続きはどのように進めるのか、そして申請に際して注意すべきポイントは何かという点を詳しく解説します。これから宿泊事業を始める方や、既に営業を始めていて許可申請を考えている方に向けて、具体的でわかりやすいガイドとなるよう心掛けています。

簡易宿所許可の取得は一見難しそうに感じるかもしれませんが、必要なステップと注意点を理解すればスムーズに進められます。本記事が皆様の事業立ち上げの一助となることを願っています。

2.簡易宿所許可とは?

簡易宿所許可の定義

「簡易宿所許可」とは、旅館業法に基づき、日本国内で簡易宿泊業を営むために必要な許可のことです。この許可がなければ、簡易宿所としての営業は法律に違反することになります。

具体的には、以下のような条件に該当する施設が対象となります。

  • 宿泊者が1日を通じて使用できる客室を設け、5人以上を収容できる施設
  • 施設の主な目的が宿泊提供であること
  • 施設に食事提供の設備がない、またはあっても主たるサービスが宿泊提供であること

これらの条件を満たす施設が「簡易宿所」と定義され、その運営には必ず「簡易宿所許可」が必要となります。

簡易宿所許可が必要となるケース

簡易宿所許可が必要となるのは主に以下の3つのケースです。

  1. 旅館業法上の「旅館」または「ホテル」として宿泊施設を運営する場合
  2. 都市計画法上の「宿泊施設」を開設する場合
  3. 住宅宿泊事業法に基づく「民泊」を提供する場合

まず一つ目、「旅館」や「ホテル」としての運営は、5室以上11人以上を収容できる施設を指します。一方、二つ目の「宿泊施設」は、それより少人数で運営する場合に該当します。最後に、私的な居住空間である一部屋や一棟を貸し出す場合、「民泊」となります。

これらの運営形態に関わらず、一般に宿泊事業を開始するには簡易宿所許可が必要となります。それぞれ異なる条件や規模により、申請の手続きや必要な書類等も変わるため、適切な許可を取得することが大切です。

3.簡易宿所許可申請の手続き

事前相談

簡易宿所許可の申請手続きは、まず事前相談からスタートします。これは申請者が準備するべき書類や、施設の構造設備が適切かどうかを確認するための重要なステップです。

事前相談は主に以下の2つのステップからなります。

  1. 行政機関への確認 簡易宿所許可を取得したい地域の行政機関に連絡し、ビジネスの内容や計画を説明します。そして、該当する法令や規制、必要な書類などの詳細情報を確認します。
  2. 書類の準備 行政機関から受け取った情報を基に、許可申請に必要な書類を準備します。これには事業計画書、建築設計図、適合証明書などが含まれることが多いです。

以上のような手順を踏むことで、申請者自身が想定していなかった問題点を早期に発見し、スムーズに許可申請を進めることが可能となります。

許可申請の書類作成

許可申請を行うためには、以下のような書類が必要となります。

  1. 旅館業許可申請書:事業者の基本情報や施設の設備内容を記載。
  2. 建築確認済証(新築の場合)または建築確認済証の写し(既存建築物の場合):建築基準法に基づく安全性を証明。
  3. 家主の同意書:賃貸物件を使用する場合に必要。

これらの他にも、施設の規模や設備によって追加の書類が必要となる場合があります。例えば、消防法等に基づく設備確認書や騒音防止対策等に関する書類などです。

各書類は市町村の役所や都道府県によるHP上でダウンロード可能な場合が多いです。また、複雑な書類作成は専門の行政書士に依頼することも一つの選択肢となります。

施設検査

施設検査は、許可申請手続きの重要なステップです。これは申請者が提出した書類が受理された後、行われます。この検査は、宿泊施設が法令に基づく「構造設備」の基準を満たしているかどうかを確認するためのものです。

主な検査項目は以下の通りです:

項目詳細
1.避難設備消防法や建築基準法に基づく避難設備が設置されているか
2.防火設備防火壁や防火扉などが適切に設置されているか
3.衛生設備厨房やトイレ、浴室など、衛生状態を保つための設備が整っているか

この検査に合格することで、簡易宿所としての運営が許可されます。検査に不合格となった場合は、指摘された部分を改善し再検査を受けることになります。

許可・営業開始

許可申請の書類作成、事前相談、施設検査を経て、最終的には「簡易宿所許可証」の交付が行われます。これがあなたの宿泊事業のスタートラインとなります。

許可を取得したら、直ちに営業を開始することが可能です。しかし、開始前には、宿泊施設の安全性を確保するための設備点検や消防設備の整備をしっかりと行いましょう。また、「旅館業法」や「消防法」に基づく報告義務も忘れずに!

具体的な手続きは以下の通りです。

ステップ内容
1.設備点検電気・ガス・水道などの基本施設のチェック
2.消防設備整備火災報知器、消火器などの設置・点検
3.法令報告旅館業法や消防法に基づく報告義務の遵守

これらの手続きを経て、いよいよあなたの宿泊事業がスタートします。許可取得から営業開始まで、一歩一歩丁寧に進めていきましょう。

4.許可申請をするための要件と注意点

満たすべき「構造設備」の基準

満たすべき「構造設備」の基準とは、宿泊者の安全利便性を保証するためのものです。

まず、宿泊施設は建築基準法に基づく建築確認を経ていることが必須です。これには、疎通通路の確保などが含まれます。

また、施設内には適切な消防設備が設置されていることが求められます。具体的には以下の表の条件を満たす必要があります。

設備条件
消防設備消防法に基づく設置
避難設備避難路・避難器具の設置

さらに、各室には換気設備や暖房冷房設備、照明設備が設けられていることも重要となります。

これらの基準を満たすことで、訪れる宿泊者に快適な滞在環境を提供でき、簡易宿所許可の取得に一歩近づくことが可能となります。

満たすべき「申請者」の資格

簡易宿所許可の申請者は、以下のいずれかの資格を持つ必要があります。

  • 個人の場合 本人が行政処分を受けていないこと。また、薬物乱用や経済的な問題、精神的な健康問題がないこと。
  • 法人の場合 役員全員が上記の個人の条件を満たすこと。さらに、会社が安定した経済状況にあること。

特に法人の場合、経済的な安定性は、事業計画の実現可能性を示す重要な指標です。資金調達能力、事業計画の適切さなどが審査されます。許可を得るためには、具体的な事業計画を立て、それを実行する能力があることを証明する必要があります。

許可取得が難しいケースとその対策

一部の施設では、簡易宿所許可の取得が難しいケースが存在します。その多くは、建築基準法や消防法に適合していない等の理由からです。具体的には、以下のような状況が該当します。

①「避難路・避難器具」が不十分な場合 ②「防火対策」が充分に施されていない場合 ③オーナー自らが「営業主体」になれない場合

これらの問題に対する対策は以下の通りです。

①避難路・避難器具の改善:専門家と協議し、必要な改善を行います。 ②防火対策の強化:防火壁設置や自動火災報知設備の設置等を行います。 ③営業主体の確保:必要に応じて宿泊事業に詳しい専門家を雇用します。

これらの対策を講じることで、許可取得のハードルを下げることが可能です。

5.申請後の義務と違反した場合の罰則

営業者が講ずべき措置

簡易宿所の許可を得た営業者は、以下の措置を講じる必要があります。

まず、営業の開始・休止・再開・廃止を行う際には、都道府県知事に予め通知することが義務付けられています。変更があった場合も、速やかに届け出る必要があります。

次に、施設の安全確保です。これには、火災予防、衛生管理、建築基準法に基づく建物の安全性確保などが含まれます。また、客室の数や設備、清掃の状況なども適切に管理し、安心安全なサービスを提供することが求められます。

さらに、営業者は客室の使用状況を記録し、2年間保存することが義務付けられています。利用者名、利用日、利用時間などを含む詳細な記録が必要となります。

これらの義務遵守は、営業者の信頼性を保つだけでなく、問題発生時の対応を円滑に進めるためにも重要となります。

旅館業法に違反した場合の罰則

旅館業法の罰則規定は厳しく定められており、許可を得ずに簡易宿所を営業した場合や、法令に違反する行為をした場合は、罰せられます。以下に主な罰則を紹介します。

  1. 未許可での営業:最大で2年以下の懲役または300万円以下の罰金
  2. 定められた営業時間、施設の範囲等を超えた営業:最大で6ヶ月以下の懲役または100万円以下の罰金
  3. 申請内容に虚偽を含めた場合、又は報告を怠った場合:最大で3ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金

以上のように罰則が厳しく制定されているため、必ず許可を得てから営業を開始し、法律を遵守することが大切です。罰則を受けると、信用失墜につながるだけでなく、重大な経済的損失をもたらします。

6.マンションでの簡易宿所営業

マンションでの申請可能性

マンションで簡易宿所の許可を得ることは可能ですが、いくつかの注意点があります。

まず、マンションの所有権者であることが必要です。また、管理組合の承認が必要となる場合もあります。これは、マンション内で営業を行うことが管理規約により禁止されている場合や、共用部分の利用に関して制限がある場合などです。

また、ビル建築時の設計図に基づいた「用途地域」や「建築基準法」に抵触しないか確認が必要です。これらの規定が厳しいエリアでは許可が下りにくい場合もあります。

以下に、マンションでの簡易宿所許可の申請可能性を判断する要素を表にまとめました。

要素詳細
所有権者マンションの所有者であること
管理組合の承認管理規約が簡易宿所の運営を禁止していないか、必要なら取得
用途地域・建築基準法ビル建築時の設計図に基づく規定に抵触しないこと

以上に気を付けて、適切な手続きを進めてください。

管理規約の確認と対策

マンションで簡易宿所を営業する際には、その建物の管理規約の確認が必要です。なぜなら、一部のマンションでは、管理規約で住居以外の用途に使用することを禁止しているケースがあるからです。そのため、簡易宿所として使用することが管理規約違反となる可能性もあります。

<表1>

管理規約の有無制限内容対策
あり住居以外の用途禁止建物所有者や管理組合との調整

対策としては、マンションの所有者や管理組合と事前に相談し、簡易宿所として使用する許可を得ることが最も確実です。また、規約改正を申し入れることも一つの方法です。これらは時間と手間がかかる作業ではありますが、トラブルを防ぐためには必要なプロセスとなります。

居住者との動線分け

マンションでの簡易宿泊所営業では、「居住者との動線分け」が重要となります。これは、宿泊客と居住者が接触する機会を減らし、トラブルを防ぐための措置です。

具体的には、以下のような対策を取ることが考えられます。

  1. 共用部分の利用制限:エントランス、エレベーター、廊下等の共有スペースは居住者も利用するため、可能な限り宿泊客の利用を制限する。
  2. 独立した出入口の設置:宿泊客専用の出入口を設けることで、居住者と宿泊客の動線を完全に分けることが可能です。

なお、動線分けについては、マンションの構造や規模によって取れる対策が異なるため、具体的な施策は物件ごとに検討する必要があります。

7.その他、知っておきたい法律

住宅宿泊事業法・特区民泊・建築基準法・消防法・条例

住宅宿泊事業法では、民泊を行う際の基準が定められています。許可を受けることで一定の期間、自宅を宿泊施設として利用することが可能となります。

特区民泊は、一部地域で試験的に行われている制度で、住宅宿泊事業法とは異なり、年間の宿泊日数制限がないなどの特徴があります。ただし、自治体毎に設けられた独自の規制を遵守する必要があります。

建築基準法では、建物の構造や設備に関する基準が定められています。簡易宿所として利用する場合も、この法律に基づいた設備等が求められます。

消防法では、火災予防に関する措置が定められており、簡易宿所として営業する際にはこれらの義務を果たす必要があります。

また、各自治体では条例により、これらの法律以外の要件も設けられていることがあります。具体的には、騒音防止や駐車場の確保など、地域の事情に応じた規制が存在します。これらも確認し、遵守することが重要です。

8.まとめ

簡易宿所許可の取得は、宿泊事業を始めるために必要なステップの一つです。まず、許可が必要となるケースを理解し、事前相談をして手続きを進めましょう。構造設備の基準や申請者の資格など、満たすべき要件と注意点を把握しておくことが重要です。また、許可取得後は、旅館業法に基づく義務を遵守し、罰則を避けるように心掛けてください。

マンションでの簡易宿所営業については、管理規約の確認と居住者との動線分けがポイントとなります。さらに、住宅宿泊事業法・特区民泊・建築基準法・消防法・条例など、関連する法律も把握しておくことが必要です。

以上の要点を抑えて進めることで、スムーズな許可申請と宿泊事業の運営が可能となります。

宿泊不動産、
収益を最大化するなら9STAY。

物件の仕入れから運用、
売却までワンストップで対応。
収益シミュレーションから運営切り替えなど、
お気軽にご相談ください。